ある金曜日の夜。
「ねえケーン。あそこのマンションがもうすぐ完成するよ」
「そっか。セメントがちょうどいいかもな」
「今夜はボクが最初にセメントぷにゅぷにゅしてもいいかなあ?」
「もちろんだよハリー。この前はオレが先だったからな」
3日後の月曜日。
すっかり固まった「ネコの足跡のコンクリート」を発見して親方はカンカン。
「ったく悪い黒猫兄弟め。シゴトが増えて困るじゃないか!」
「ねえケーン。夢川さんちの軒下にでっかいお団子があったよ」
「それは妙だな。夢川のジジイは大のネコ嫌いだ。罠だよ。剣呑さ (注1)」
「そうかなあ。おいしそうなお団子なのに」
「ハリー。オマエ先週さ。夢川のジジイの盆栽で爪ガリガリしただろ?」
「うん。見つかって将棋の駒を投げられた。よけたけど」
「それだ。きっと毒入り団子だぜ」
「じゃあおいしくても死んじゃうね」
「そうだ。ヤバいよ。絶対に剣呑だ」
「ねえケーン。最近エサくれるヒトが減ったね」
「そうだな。ネコ嫌いの夢川のジジイが町内会長で地主だろ。
ノラ猫撲滅運動の急先鋒だからな。(注2)
みんなアタマあがんないんだよ。逆らったら立ち退きだからさ」
「お腹空いたね」
「オレたち悪さバッカしてるからしょーがないよ」
「どっか別の町へ行かないとダメかなあ」
「そうだな。潮時かもしんない」
ある大雨の夜。 電柱の張り紙をふたりは見つけました。
「黒猫レインを探してます。
レイン発見者には20億円の謝礼。
また情報提供者にはカツオフレッシュパックなど食べ放題。
レインハウスの詩人へ連絡ください。(真夜中でもいいです)」
「おい。ハリー。ここへ行こうぜ」
「うん。行こう。20億円が食べ放題だね」
「フレッシュパックも食べ放題だしな」
「でもレインじゃなくてもいいのかなあ?」
「いいんだよ。オレたちは黒猫だから」
「詩人てどんなヒトかなあ?」
「詩人てのは世界どこへいっても変人て相場がキマッテル。
でもな。詩人てのはなぜかネコが好きなんだよ」
「じゃあだいじょうぶだよね?」
「たぶんな。もしネコ嫌いの詩人だったら」
「だったら?」
「そいつはニセモノだ」
そんなこんなでハリーとケーンはレインハウスで暮らすようになりました。
ふたりは用心棒のようにレインハウスをパトロールする仕事をやりました。
「おーい。ゼリー。泥んこ遊びのあとはちゃんと脚を洗うんだぞー」
「よーい。ロボ君。セメントをぷにゅぷにゅしたら親方が困るからダ メ!」