新・最後のアジト




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新・最後のアジトact.3 「ボランティアのクモザルとフラミンゴの涙」

 カオルの家からダラダラ歩いて1時間ぐらいのところに「夢見ヶ先動物公園」というのがある。
 無料でしょぼくれている。でもなんとなく人気のある動物園。
 無料ということもあるのかもしれないが動物達もあまりファンサービスをしない。
「タダなんだからさ。オレたちノーギャラだしさ。あんまり期待されても困るんだよ。
 そういうのを期待するのなら上野動物園とか行ってくれよ」てなかんじが漂っている。
 セキュリティも甘くクジャクの檻の中にスズメやハトも侵入しエサを食べている。
 たまにオスのクジャクが威嚇して追い払うがすぐに戻ってくる。
 それにしてもクジャクはアップで見れば見るほど信じられないほど美しい羽を持っている。
 なんか理由があるんだろうけれど強烈な色だ。高級な深いシルクのようなグラデーション。
 そのなかに「蛍光」のようなブルー。
 羽を広げたところを観たいと思ったが「期待しすぎ」だしなんだかクジャクのサイズと
 檻のサイズが合ってなくてたぶん広げらんねーんじゃねーの?である。
 近所の人が「亀・ネコ」を捨てに来るらしくフラミンゴの檻の中にも亀がたくさんいた。
 当然「説明板」はフラミンゴのみ記載されている。それにしても動物の紹介はややこしくなくて簡単でよい。

 ワタボウシパンシェ
 生まれ コロンビア北西部
 食べ物 木の実・果実
 住まい 林

 インドクジャク
 生まれ インド・パキスタン
 食べ物 昆虫・木の実
 住まい ひらけた林

 エリマキキツネザル 霊長目
 生まれ マダガスカル島東部
 食べ物 木の実・果実
 住まい 熱帯雨林

 とりあえず彼らには「迷惑メール」「申告漏れ」「幼児虐待」などないのがよい。

 カオル  チンピラ類
 生まれ  横浜市北東部
 食べ物  タバコ・ゼリー
 住まい  古本屋の2F

 オレもこんなのがよい。

 クモザルの檻の前に20前後の不良っぽい兄ちゃん達がいた。
 まあ動物園に来るんだからそんなに悪いヤツらではないんだろうけど見た目は悪そうだった。
 クモザルにジャンクフードをあげている。常連らしく「今日はアイツにあげるんだ」などと話している。
 ひとりの兄ちゃんが入り口付近の露店で買った赤い「ヨーヨー」を振ってクモザルをからかっている。
 ゴム風船は水が入っていてゴムでポンポンするヤツ。嫌な予感がした。クモザルがヨーヨーをつかんだ。
 兄ちゃんは慌ててゴムを引っ張る。仲間が叫ぶ。「オマエやめろ。離したら顔面にゴムが当たるぞ」
 当事者はパニクっており何かを決断する前にクモザルの面前で風船は割れ水がかかる。
 クモザルは怒って吠えている。カオルは久しぶりに怒鳴った。
「オマエら何やってんだ?バカヤロー」ジッポを取りだし当事者の顔の前で火をつけた。
「いいか。お前がやったことはこういうことなんだよ」少年たちが暴れるだろうなと思って覚悟していたが
 みんな校長室の花瓶を割ってしまった小学生のようにしょぼくれていた。

「ペット持ち込み禁止」と書いていないので「犬を連れた人」の来園も多い。
 キツネザルのところでダックスフンドが威嚇している。サルが強烈な叫び声・悲鳴を上げる。
 よく見ると一匹がゲロを吐くようにのたうち回っている。
 威嚇なのか。それとも「変なもんがノドに詰まった」のか。
 想像力のない人間が多すぎる。「結果の可能性」に対してイメージできないヤツらが多すぎる。
 そんな馬鹿だから仕方ないのだろうけれどみんな「服を着た犬」を連れている。

 太い道路のところでカオルは途方に暮れていた。しゃがみ込んで。犬の散歩している人がいる。
 カオルは発見した。犬の顔の高さちょうどぐらいにガソリン臭い排気ガスをまき散らしながら
 車が走り去っていく。え?「副流煙・歩きタバコ」よりヤバくないか?

 カオルは「行き場のない怒り」でロックの血が逆流している。ビンボーくせーヤツらめ。
 アホ。チンカス。とんかち。想像力がなさ過ぎる。品がなさ過ぎる。下品だ。愚劣だ。
 はっきり「ウンコしたい」というのは下品ではない。率直に曖昧さがなく相手の要求がわかる。
 でも「下痢でさ。ぐちょぐちょウンコだよ」と食事中の人のそばで言うのは下品だ。
 いちばん強く感じたこと。来園している家族・恋人・友達・老夫婦にある種の「共通点」をカオルは発見した。
 なんでほぼ全員「貧乏臭く・ダサく」見えるんだろう?
 金の太いネックレスをしているからカオルよりは金持ちだろうが。
 でもなんでドンキーの2980円のジャージと組み合わせるんだろう。なんでみんな髪を脱色しているんだろう?
 なんでみんな同じような「喋り方・眉毛」なんだろう?クジャクを観察するより集中して「ヒト」の顔を眺めていた。
 なんか変だ。なんだろうこの「違和感と絶望感」は。
 わかった。「メイク」だ。物理的にでも観念的にでも「メイク」がヘタなんだ。
「染みついた疲れとストレスと汚れ」をちゃんと落とさないで寝て朝慌ててメイクして。
 そのくり返しだから「綺麗になる訳ない」のだ。
 老化は仕方ない。白髪が増え髪が抜け腹はたるみシワができる。これは仕方がない。重力には逆らえない。
 でも「南の島の部族の長老」はシワシワだけど貧乏臭くない。
 たぶん「汚れないように・その落とし方」を先祖代々知っているんだ。

 もうやめよう。
 この文章は「絶対バカにはわからない」から。
 それに賛同してくれる人には「わかっているから改めて言うことはない」から。
 とにかくオレは苛立っている。
 目の前で風船が破裂したクモザルのように。

 そんな下品なヤツらは放っておいて仲間と遊ぶか?
「アホ・ボケ」とケンカを売るか?
 ダライ・ラマ14世はそういう人たちを見ても冷静だ。
「許しなさい。かつてキミがそうだったように彼らは『気付くまでのプロセス』なんだから」
 なあ。坊さんよ。オレはアンタみたいにクールじゃないんだ。許せないんだよ。
 でもなたぶんヤツらのせいじゃないんだよ。
「平等」をエサにオレ達を巧妙に飼い馴らしているヤツらがいるんだよ。
 オレぶっとばしてやりたいんだよ。でもな。どこに「いる」のかわからないんだよ。
 とりあえず「仲間を巻き込みたくない」からひとりでやる。
 勝海舟か。ジャンヌ・ダルクか。革命か。聖戦か。めんどくせーな。人間は本当にめんどくせーな。

 帰り道ネコと遭遇した。口笛を吹くとすり寄ってきた。
「おう。カオルだ。オレさ。さっきからイラついてんだ。
 ネコよ。あんまり簡単に心を許すなよ。人間は最低なんだから」
 ネコを撫でてたらカオルはちょっと落ち着いた。これから『作戦』を考える。
「愛の言葉と合言葉を知らないヤツには開けないドアのあるアジト」で。

 おしまい。
   
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