新・最後のアジト




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新・最後のアジトact.4 「バターとチェーンのパンクキッズに銀メッキの勲章を」

 パンク。車のタイヤのやつじゃないぞ。「 PUNK ROCK 」のことだ。
 カオルはそのパンクという音楽の歴史など詳しいことはあまり知らない。でも想像をしてみよう。
 60〜70年代のイギリス。女王陛下が統治している国。
 ビートルズ・ローリングストーンズ・ドアーズ・ツェッペリンなどの凄いバンドが生まれた国。
 そして貧富の差はかなりある国。カースト制度ほど明確なモノではないがなんとなく暗黙の「階級」がある。
 貴婦人達が豪華なカップでアールヌーボーのようなお部屋で「午後のティータイム」を楽しんでいる。
 でもほとんどはブルーカラー。
 油にまみれて一日中穴を掘って日給4000円ぐらいがポンドだかユーロで支払われる。
 週払い。給料日「ペイデイ」は週末。6日間馬車馬のように働いて2万4千円ぐらい。給料を週末に貰う。
 半分ぐらいは家賃に。さらにその半分ぐらいが飯代や光熱費。スゲー苦しい生活だ。
 でも週1回ぐらいは贅沢をしたい。ウップンを晴らしたい。
 よし。今日はゴキゲンなパンクロックバンド「セックス・ピストルズ」のギグに行こう。
 目一杯オシャレしたい。でもズボンは1本しかない。
 バイトの時にはいている「穴の開いたボロボロのジーンズ」しかない。ないからしゃーない。
「ジャパン」のように「わざと穴を開けたジーパンを買う」なんてややこしいことはない。
 革ジャンはある。兄貴かオヤジの「お下がり」かどっかで盗んできたやつ。
 それに「くすねた画鋲」でデコレーションする。ふむ。
 欲張れば「貴金属・アクセサリー」も欲しい。でもそんなのを買う金はない。でもチャラチャラさせたい。
 あ。そうだ。ガレージに「チェーン」があった。「南京錠」もあった。うん。悪くない。
 ピアスなんて「安全ピン」でいいや。「クリップ」でいいや。
 あとは髪形だ。シド・ビシャスみたいに髪を逆立てたい。
 でも「ムース」とか売ってない時代だしグリースとかポマードは売ってるけど高価すぎて買えない。
 しかたない。「靴墨・バター」でいいや。ちょっと臭いけどどうせバイトで臭いし。よし。レッツゴーだ。
 ライブ会場に到着。ストレスやフラストレーションたっぷりのクソガキばっかだ。
「 I can get no satisfaction 」な欲求不満のヤツばっかりだ。会場の灯がスーッと落ちる。
 爆音のBGMでメンバーが登場する。ベースのシドはすでに酒かクスリでぶっ飛んでいる。
 ボーカルのジョン・ライドンが叫ぶ。
「よう。クソガキ共。また今週もクソボスにコキ使われたんだろ?かまうことはねー。好きにやんな。
 こういう時に中指を立てるんだよ。ファッキューだ。F・U・C・Kだ」2時間ぐらい暴れまくる。
 グチャグチャだ。ギグが終る。まだ興奮している。収まりがつかない。
 だからねーちゃんナンパしたりバーで飲む。金が無くなるまで。朝が来る。またクソみたいな1週間が始る。
 ポケットのコインがぶつかるリズムで家路につく。すっからかんだ。スカンピンだ。
 また穴を掘る。6日我慢してまたギグで暴れる。そんなくり返し。すべてが「ヤラセ」と気がつくまで。
 それを気付いたヒトを「オトナ」と呼ぶ。

 べつに「175ライダー」でも「青春パンク」でも「ブルーハーツ」でもいい。好きにやりゃあイイ。
 でもな。オレは伝えたいんだよ。医者や弁護士は別としてブルーカラーが「金持ち」になれるのは
「ロックンローラー」か「サッカー選手」しか選択肢のない国があるってコトを。
 わかんなきゃ
「子供だましのカラオケミュージック メイドイン ジャパン」のクソ音楽でカラオケしてりゃあイイ。
 イイよホントに。でもそういう想像力がない野郎はカオルの「しょぼいやつリスト」に入れるからな。

 ビートルズが女王陛下の前でコンサートをしたことがある。
 ジョン・レノンがその時サイコーなジョークを言ったらしい。
「今晩は。紳士淑女のみなさん。ボクらがビートルズです。
 お金持ちの方はアクセサリーなどをチャラチャラして音出して下さい。
 ビンボー人の方は素手で拍手をして応援して下さい」

 are you hungry?
 満足していらっしゃっているのなら幸せですな。

 じゃあな。
   
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