新・最後のアジト




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新・最後のアジトact.7 「紳士的なポリスにスライムとシンナー色の香水を」

わたくしカオルは「セックス・ドラクエ・ロックンロール」と豪語しているほど
ロールプレイングゲームの名作「ドラゴンクエスト」が大好きである。
細部に渡って「プロの美学」を感じるし「キャラクターデザイン」
「ストーリー」なども。
そのゲームに「スライム」と呼ばれる可愛くて弱っちいモンスターが登場する。
カオルはその「フィギア」をコレクションして部屋に飾りグヒヒヒと笑っている。
たまにライブの時ピアノの上にディスプレイしたりしている。
ドラゴンクエストの最新作を購入して半年近く経っているのだがまだやってない。
忙しいのもあるけど「カオル君がデカいコト達成」の御褒美にと。

「不定期日記」にも書いたのだが昨年冬に友人のM社長が経営する「精密部品塗装工場」で1ヶ月ほど働いていた。
単純・軽作業だがスライムベスのようにヘナチョコカオルには重労働であった。塗装・乾燥という職業の性質上
空気がかなり乾いている。ノドによくない。指先のダメージも多いのでさっそく「ギブアップ」させてもらった。

あるそのバイトの帰り道。寒い夕暮れ。バスを待っていた。
カオルは「詩や文」を考えてる時「動物園の白熊」のようにウロウロうつむいて揺れダラダラしている。
「その文」などをつぶやきながらタバコを吸ったり。その夜もバス停でウロウロ考えていた。
タバコを吸おうと思ってコートのポケットからライターを出そうとした。
取出す際キーホルダーに絡まって小銭などを路上にバラまいてしまった。
しゃがんで拾っていると親切な方が2名手伝って拾ってくれた。
カオルはしゃがみながら上をむき帽子をとり「ありがとうございます」と言った。
そのふたりはお巡りさんであった。中年と新人。ふたりの顔つきが変わった。
そうだ。カオルには眉毛がないのだ。ポリスは「不審者?職務質問?」的に耳打ちしあった。
若いほうがカオルの背後にすっとシフトチェンジする。「お兄さんはこの近所の人?どこへ行く予定なの?」
意味もなくうろたえるカオル「え。あのバスで帰るところで。まあ近所といえば近所なんです。
歩いて1時間ぐらい。あ。それは近所ではないですよね。モゴゴゴガゴガ」
中年ポリスが言う。「ふーんそうですか。あの〜お兄さん。なんだかシンナー臭いですよ?」
カオルさらにパニクる
「いや。あの。バイトで。あのあっちの工場でバイトで。塗装屋さんなんでシンナーなんですよ。はい。」
すげーウソに聞える。
ポリスが言う「そうですか。これは任意なんですけれどもポケットの中身など見せていただけますか?」
普段のカオルなら断る。「なに?職務質問だと?ボディーチェックはOKだがポケットなど内側は断ったら
探れないんだぞ。越権行為なのだぞ。新米ポリスめ」などと言いながら。
だがその日はダメダメだったしまあ「変なもの」もポケットに入ってなさそうなのであっさり同意した。
キーホルダー・ライター・タバコ・バスカード・ガムなど。
その中にひとつを指さしポリスが訊ねる「ねえ?お兄さんこれは何?」
あ。なぜだろう?「スライムのフィギアが1匹」混じっているぞ。
「え。あ。あのこれは。えー。スライムです。正確に言うとスライムベスです」
ポリスがアイコンタクトしている。
「わかりました。このバス停でいいんですか?来るまで待ってましょうか?」親切だ。
どうやらカオルは「不審者」から「おかしなヒト」に認識がかわったらしい。

「ヒトは外見ではない」などというが「最初は外見」だ。
「内側・性格」など初対面ではわかりっこない。
「眉毛ないけどイイヤツ」とか「眉毛ないけど泣き虫」などは後に判明するのである。

2005年9月11日の渋谷O-crestワンマンを大成功・ソールドアウトしドラクエ8をやれたらよいな。

おしまい。
   
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