新・最後のアジト




<< liblaryトップに戻る
新・最後のアジトact.39 「色褪せたメモに鈴虫のメロディーを」 

12年前の日記。

「プロのチンピラであるオレは
 自分の縄張りで本日もうつつを抜かしている。
 失ってきたもの・新しく手に入れたもの
 そしてこれから失いそうなものについて考える。
 30年も生きてきて『オレはまだ何もわかってない』ということがわかった。

 今夜も宵の闇は世界を包み込み
 月は街を照らし(ネオンの灯りに比べてそれはささやかではあるが)
 オレときたら今夜も眠れずにペンを持ってうろうろとしている。

 月光中毒者であるオレは久しぶりに満月にありついて
 ジンをラッパ飲みしながら出来るだけ楽観的に『来るべき死』を。
 『生活』に丸め込まれるのだけは嫌だな。
 酔生夢死。

 タバコが切れたので買いに行こうと想ったら
 コートのポケットの中にくしゃくしゃのがあった。
 たぶん去年のヤツだろう」

離婚して半年後ぐらいの日記だ。
あの頃はジンを飲みながらライブをやってたんだ。
高円寺のショーボートで待ち時間に耐えられず飲み過ぎてしまい
ステージには出たのだが鍵盤の白黒が逆に見えたりして
完全にアウトになってしまい2曲で誰にも挨拶せずに帰ってしまった。
そのひと月後「ごめんなさいライブ・ドリンク代はカオル持ち」というのをやった。

その日記帳の中に変色した(感熱紙)メモが出てきた。

「その日は朝から風が強くてオレはまるで紙クズだった」
「あなたらしくないなんてキミらしくないことを言うね」
「わざとため息をついてみた。
 もちろん何も変わらないしむしろ状況は悪くなったとも言える。
 しかしオレはわざとため息をついてみる。
 それは『意思』だからだ」

最近はあまり詩が書けない。
自分でも理由はわからない。
バイトばっかしているからかなとも想う。
飢えていないのだろうか。

とにかく冒頭の日記から12年が過ぎたけれど
やはりオレは何もわかっていないようだ。
今夜は雨が降っている。
冬を予感させる冷たい音のする雨だ。
鈴虫の鳴き声もする。
月は見えない。
裏庭のささやかな野生。

次回のコラムは。
「ありふれた言葉」で「大切なこと」を語れたらいいなと想っている。

Good Night baby.
   
  act.40へ→