バラッドキング日記




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  「バラッドキング日記 その3」
   
プロデューサー塚本とエンジニアのかっぱちゃんと
オレの「今回のレコーディングの軸」は同じだった。
徹底的に余計なモノはそぎ落としてソリッドにする。
なるべく「そのまま 生の状態 精神の揺れも含めて」を記録する。
できるだけ「デジタル裏技を使わない」だ。
 
音程の補正など「最新デジタル技術」については前回書いた。
オレは(いまのところ)「詩だけはまだアナログしかできない」と想っている。
詩をデジタル処理は(いまのところ)できない。
 
もちろん世界には「デジタルだからこそ素敵な作品」もある。
逆に「アナログにこだわって失敗したもの」もある。
時間効率経費を考えれば誰だって「デジタルの方がお得」だとわかる。
某配信会社の方が「カオル。アルバムつくってるんだって?
 でもCD盤とか歌詞カードとか経費かかるし置く場所も大変だし
 効率悪いよ。流行らないよ。配信だったらすぐできるよ」と言った。
でもオレは「オレは詩人だから。サイン頼まれてiPodにしたくない。
 それにカンパ者名簿をつくらなきゃならないしさ」と断った。
 
たぶんオレたちはバカなんだと想う。
 
さて。
今回は「それぞれの曲の録音状況」を書こうと想っているのだが資料がない。
「しみったれワルツ」の歌詞で
「忘れられないことは 忘れちゃいけないこと?」とあるけれど
逆に言えば「忘れちゃったことはたいしたことない」のかもしれない。
 
最初に唄ったのは「チェインスモーキングブルース」だ。
これはライブ活動再開後の初作品で
「歌詞の内容 キーの高さ」など
「どんなに悪い状態でも唄える曲」としてつくった。
まあ「いちばん安全かな」と想ったのだがうまくいかない。
とりあえず2回続けて録ったんだけど「ピンと来ないかんじ」だった。
あまり同じ曲を続けると集中力も落ちるし新鮮さもなくなるし
脳が「間違えないように ちょっと小細工を」と考え始める。
純粋に曲に向き合えなくなり「あざとく わざとらしく」なっていく。
だから保留にして「相棒たちのバラッド」を3回ぐらい唄った。
でもこれもイマイチ。
保留にして「ハダカのレディのバラッド」へ。
これは前回も書いたけれど「最高のファーストテイク」だったが
最後の最後でどうやっても誤摩化せないミスをした。
たぶんミキシングルームでプロデューサーとエンジニアは
「カオルやばいかも?」だったと想うが
オレの中では「なにか吹っ切れたカンジ」だった。
「詩もいい。曲もいい。ちょっとぐらいピアノをミスしたって
 音程が外れていたって曲が悪くなるわけじゃない。
 だいたいオレに正確さなんて誰も求めていない。(よな?)
 ハダカのレディを想ってただ唄うだけだ」
 
そしたらすごくいいカンジの手応えで唄い切れた。
ミキシングルームとの会話は距離があるので通常は「トークバック」という
ヘッドフォンとマイクでするのだが応答がない。
「ありゃ?いいと想ってたのはオレだけなのかしら」と想っていたら
レコーディングルームのトビラが明きプロデューサー塚本晃が入ってきた。
泣いていた。
「すごくよかったよ。一度ミキシングルームで聴いてみよう」
 
やっと1曲録れた。
勢いでチェインスモーキングブルースと相棒たちのバラッドを再トライ。
悪くなかったが3人とも「客観視 判断能力」がすでに落ちていた。
録った曲はすぐに聴き直して細部をチェックしていく。
自分で言うのもなんだけど。
オレの曲は温度が高いからこの作業にすごくエネルギーを使う。疲れる。
すでにこの2曲は「それぞれ4曲候補」になっている。
オレは録音装置に「2曲以上は残したくない」と想っているので
それぞれ「ダメだと想ったテイクはゴミ箱」に。
 
もう時間も深夜2時になる。
今夜は終わりだな。と想っていたら
塚本プロデューサーがとんでもないことを言い出した。
「カオル。その終わる寸前の状態でジェネレーションズを唄ってくれないか?
 すでに世に出ている曲だけどヘロヘロの弾き語りバージョンが聴きたい」
オレは使い方が間違っているかもだが「イエス」と答えた。
「そのかわり。今夜しか唄えない。そして1度しか唄わない」
 
脳が爆発したのを覚えている。
歌詞なんてぜんぜんわからない。
とにかく全力で唄った。
飛び込んだら泳ぐしかない。おりゃーの精神じゃ。
 
ミキシングルームに戻るとふたりはすごく喜んでる。
「カオルさん。最後の方。ピアノがんがんするから音割れちゃいましたよ。
 声も。なんだかすごかったですよ」となぜか嬉しそうだ。
今回のジェネレーションズの後半が「ゴショゴショ」になっているのは
その「音量レベルレッドゾーン」を隠すためだ。
デジタルの「割れた音」は音楽的には聴こえないんだ。
 
これが初日。
これがあと4日ぐらい続く。
 
ちなみに「チェインスモーキングブルース」は
いちばん最初に唄ったヤツがオッケーテイクになったと記憶している。
 
塚本プロデューサーの最近の日記。
http://diary.tsukamotoakira.net/?eid=790345
 
帰りの真っ暗な坂道を石毛マネージャーが小走りで先に降りて
オレと塚本の足下を懐中電灯で照らしてくれた。
 
つづく。
   
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