バラッドキング日記




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  「バラッドキング日記 その5」
   
3日目はまず「いままで録った曲の整理」を塚本とやった。
 
「ジェネレーションズ」は1度しか唄ってないからこれしかない。
「ハダカのレディ」は2回やったけど最初はミステイクだから
残りのひとつしかない。
「ジャスミン」は枯れた声のラストテイクで決定。
「しみったれワルツ」はコーラスも入れてすでに完成している。
「雲をつかむような話」もオッケー。
「祭りのあと」と「リンダ」は明日ドラムとベースを入れて録る。
「相棒たちのバラッド」と「チェインスモーキングブルース」は
わからないから先入観のない三輪ちゃんとこーきに選んでもらう。
 
「方針」が決まった。
三輪ちゃんとこーきは22時到着予定で東京を出た。
「スマトラ」にはエレキを入れたいとオレは想った。
リハで塚本が弾いた音色とフレーズを気に入ったから。
オレと石毛さんは買い物などに行ってギター録りは塚本ひとりに任せた。
 
買い物から帰るとすでにギターは終了。
次に「ジャスミンにコドモがトイピアノで遊んでるようなヤツ」を録音。
「スマトラのダブルボーカル」を録音。「偶然のミスが音楽」になった。
そんなこんなしてるうちに待望の「NOWHEREリズムチーム」到着。
まずこーきに「スマトラのドラム」をやってもらった。
オレはファーストテイクでいいと想ったのだけど
こーきが納得いかないらしく再トライ。もっとよいのが録れた。
 
勢いで「ジャスミンのシェイカー」を振ってもらった。
これもオレはファーストテイクでよかったと想ったけど
プロデューサーが「もっとアクセントのないカンジで」と。
 
そして三輪ちゃんとこーきに「チェイン」と「相棒」を選んでもらった。
かっぱちゃんが録ったものを流していく。みんなで聴く。
そして「三輪ちゃんとこーきがパッと顔を上げたテイク」に決めた。
それは「最初の3秒ぐらい」で決まった。
(たぶんほとんどのヒトも「最初の3秒」ぐらいで
 その曲が好きか嫌いか判断している気がする)
結局「チェインスモーキングブルース」は初日の1回目。
「相棒」は忘れた。
 
明日は事実上の最終日。
かっぱ食堂が休日のため午後いちばんからレコーディーングできる。
ドラムのセッティングの調整だけして早めに宿に帰った。
(早めと言っても1時過ぎてたけど)
 
 
宿にふたり増えたのでオレは「別のひとり部屋」にしてもらった。
飯を食いながら愉しく飲んでいた。オレはお茶だけど。
ちょっと「オレも飲めたらなー」と想った。
 
4日目。
まず「リンダ」からやった気がする。
レコーディングのリハの時に塚本プロデューサーは遅刻した。
オレは三輪&こーきに曲の説明とリズムの解釈などを相談した。
とりあえず演奏した。いい感じだった。
いつの間にか到着したプロデューサーはいきなり踊ってる。
マイクなしで唄いながら。でも声がでかいから聞こえる。
まったくギター弾く気配なし。
「いいねー。バッチリだねー。いいねー。
 オレはいらないねー。エレキは邪魔だねー」と。
 
ほんとに忘れてしまっているが
「リンダ」も「祭りのあと」もスムーズに録れた。
オレは3日間とにかくずっとひとりでやっていたから
「リズムがいることのありがたみ ラクチンな気分」が嬉しくて
なんのストレスもなく愉しくやれた。
すごく愉しかった。
 
唄もコーラスもスムーズに録れた。
声は完全に終了しているのだがなんか悪くなかった。
(オレは蜂蜜が短期間だけど声の快復に即効性があると訊いて
 250gのヤツを3本持ち込んだ。4日で飲み尽くした。
 オレの布団にアリや不思議な虫がちょろちょろしていたのは
 そのせいじゃないかと漠然と想っている)
 
オレたちは翌日に最終チェックと片付けがある。
宿代節約のために三輪ちゃんとこーきは東京へ深夜車を走らせた。
 
石毛マネージャー。塚本プロデューサー。こーじ。
ベース三輪ちゃん。ドラムこーき。
これだけ働いて全員「ノーギャラ」だ。
オレが恩を返すには「紅白出場か紅白の司会」しかないと想っている。
唄で出るなら「リンダ」か「チェイン」か「ハダカのレディ」だ。
ステージでグランドピアノでタバコを吸ってやる。あれ「生」だろ?
司会なら「受信料なんてオレ払ってねーよ」と最高潮の時に言う。
「受信料払えるならまずヤツらにギャラを払う」と。
 
あー。
 
これでも「最大級の感謝」なんだよ。
 
さすがにかっぱちゃんには料金を払ったが
「スタジオ代とエンジニア料の総額は定価の90%オフ」ぐらいだった。
 
そして。
次は「最終行程のミックス」そして「マスタリング」なのだが。
オレは「ある曲はいろいろな化学兵器を使ってみたい」と想っていた。
しかしかっぱちゃんは「生。アコースティック。そのまま」にこだわった。
試したいけど失礼じゃないか。
迷ったけれどオレはかっぱちゃんに言った。
「あの曲にこういうエフェクトをしたい。
 あの曲のここにこういうデジタル技を使いたい。
 でもそれは生にこだわったかっぱちゃんに失礼じゃないかと想っている」
かっぱちゃんは笑いながら言った。
「まず伊豆でミックスは物理的な距離と経費がかかります。
 そしてミュージシャンは自分の音楽をどんどん実験して
 おもしろいことをやってみるべきだと想っています。
 しっかりときちんと生の音と声と歌詞が録れているから大丈夫です。
 どんどん試した方がいいです。
 そして。
 カオルさんが使いたがっている機械は
 ボクが嫌いだからここにはありませんし」
 
通常のレコーディングは「その日に録った分」を
簡単にバランスだけとってエンジニアがバンドマンに渡す。
「再確認。リスナーが通常聴くようなラジカセやiPodなどで」という意味で。
録ったスタジオの大きいスピーカで大音量で聴くと
当たり前だけれどとてもいい音がする。
でもCDを聴く普通のヒトたちはもっと一般的な再生機で聴く。
だからわざとラジカセやカセットに落としてちいさな音で確認する。
その「ギャップ」を埋めるために。
ところが理由はわからないのだがかっぱちゃんはそれをくれない。
塚本ももらったことがないらしい。
 
オレたちは「未処理の録音データ」だけ持って東京へ帰るのだが
ミックスでちょっとした「事件というかアクシデント」があった。
 
次回たぶん最終章へ。
 
続く。
   
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