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横浜坊主 その11 「わたしの体温は34度です」の巻
飼っていたネコが行方不明になった時ペット探偵に電話をした。
無料相談員という人が近所まで来てくれたので料金や捜査方法など尋ねてみた。
1日2〜3万円の料金を想定していたのだがなんと1日ふたり体制で20万円ぐらい。
これが相場だそうだ。
人捜しも同じ値段だそうで「愛するものは人間もペットも同じだから」というのが先方の言い分。
理解は出来るが弱みにつけ込まれて足下を見られているかんじがした。
相談員は人のよさそうな年配の女性でしきりに
「高くてゴメンなさい。高すぎるわよね。」と本当にすまなそうに何度も頭を下げた。
どうせ日に5千円でもオレには払えなかったのでこちらこそ恐縮した。
帰り道に探偵という仕事も悪くないなあとボンヤリと考えた。
しかしオレは待つことが苦手なので張り込みには向かないだろうし腕っぷしの方はからきしなので
悪の組織といざファイトと言った場面に出くわしたら困る。
それに相談員によれば調査のほとんどが浮気調査とのこと。
叩けばホコリの出るのは我も同じ。
自分がされて嫌なことは人にもしないほうが懸命だなあというところに考えは落ち着いた。
結局三日後にネコは戻って来て相談員にお礼の電話をしたところすでに退社したとのこと。
本当に人にはそれぞれいろんな事情がある。なんだかとても奇妙なドラマを見ているようだった。
4月半ばから高田馬場にあるESP学園という専門学校で週2回講師をすることになった。
1年前までアル中で手が震えていた男に教わる生徒は本当に不幸だと思うが運命の理不尽さを知るのに
19歳という年齢は決して遅くはないけどゴメンなさい。
作詩の生徒に痩せた青白いパンク娘がいる。
「わたしの体温は34度です。1日1食しか食べません。死にそうなのでdieと呼んで下さい。」
そう言うのでオレは初対面にもかかわらず爆笑した。
彼女は「あなたがピエロだとしてどんな芸をしますか。」という質問に対し
「皆殺しです。」と答えオレは久し振りに腹の底から笑った。
作詩以外にキーボードを教えるのだが
とりあえず「黒鍵は爆弾だと思って触るな。」というところから始めようと思う。
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