誰ハロサブストーリー




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「キラージェイの場合」
   
キラージェイ。彼の素性と消息に関してはあまり語れない。
もちろん本名も。とにかくこう理解して欲しい。
22年前チャイナタウンには混血のギャングがいたと。
誰からも恐れられていたがなぜかバンドマンには優しかったと。

オレ達がヨコハマのスタジオで練習をしていると
突然ドアが開きキラージェイがニコニコしながら入って来る。
数枚の千円札をヒラヒラさせながら。
それは「スタジオを貸せ」という合図だった。暗黙の了解。
オレ達は機材をかたずけスタジオから出る。
ロビーのソファーに座ってビールを飲んだり
ジミヘンドリックスのビデオを眺めたり。

15分ほどすると子分のような男達が
銀のトレイに載せた水割りセットと楽器をかついでやってくる。
たまにドアが開き唇から血を流した子分が転がり出てくる。
オレ達は下を向きタバコを吸い「見なかったこと」にする。

早くて30分。遅いと3時間。
キラージェイがスタジオから出てきてまた金をくれる。
「ありがとな」機嫌よさそうに帰っていく。
キラージェイが使用したあとのスタジオはとてもいいニオイがする。
香水と体臭。パワーとセクシャルとキケンの象徴のような香り。
カオルはいまでもその「ニオイ」を覚えている。
デパートなどの香水売り場にいくと必ず探す。
でも22年たってもその「ニオイ」を手に入れることができない。

キラージェイの場合。
おしまい。
   
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