誰ハロサブストーリー




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「そりたの場合」 幻の11番
   
「そりた」はネコ。出逢いのことは
不定期日記「レインとそりたの物語」に書いてあるので省く。
(2004年10/7 不定期日記参照)
カオルがいちばんビンボーな頃川沿いの街で暮らしはじめた。
そりたはチビで痩せているのにとにかく気が強かった。
タバコの煙も平気だし爆音でツェッペリンを流していても
仰向けにひっくり返ってグースカ寝ていた。

風呂も好きで(さすがにシャワーは嫌がったが)
器用に浴槽の淵を歩きお湯をかき回して遊んでいた。
風呂のお湯もペロペロ飲んだり。
飽きると洗面台にのぼりカオルが用意した座布団で寝ていた。
鼻が悪かったので湿気の多いところが好きだったのかなあと思う。

好き嫌いもあまりなく海苔も食べていた。
しかしそりたはよく吐いた。
子猫にはありがちらしいので簡単に考えていた。
そしてピアノの上やとにかくところ構わず吐くので
殴りはしなかったけどよく怒鳴りつけていた。
その吐くという行為が「病気」だと知るまでは。

そう。そりたは食道に「くぼみ」があり
食べたものが胃に収まる前にそのくぼみに溜まってしまうと。
だからほとんど吐いてしまい
食べた量の5分の1ぐらいしか胃まで到達しないと。
「吐くのは仕方ない。たくさん食べさせて下さい。
 少し高価いですがビタミン剤などもあげて下さい」獣医にそういわれた。

キャットフードを牛乳と混ぜミキサーで流動食にしたり
ビタミン剤を砕いて好物の煮干しに混ぜたり。
しかしある日から吐く量が増えご飯を食べなくなった。
みるみる毛並みが悪くなっていく。
様子を見た。
そりたは明らかにヨロヨロと普段絶対にいかないところへ
暗い隅の方へ歩いていこうとしていた。

今思えば「死に場所」を探していたんだと思う。
迷ったが借金をして動物病院に連れていった。
そりたは病院が近づくと猛烈に暴れて嫌がった。
「お祭りのヒトゴミ」だってぜんぜん平気だったそりたが。
病気とは思えないすごいチカラで暴れた。

獣医が言った。
「かなりキケンですが大丈夫でしょう。
 手術をするので明日の昼に迎えに来て下さい」
嫌な予感がした。

朝方電話が鳴った。
「お亡くなりになりました。
 やれることは全部やったのですが」

そりたを引き取りに行った。
ツメはかなり深く切られていた。
暴れたんだろ。
悪かった。オマエすげー嫌がってたもんな。
どうせ死ぬならあの部屋がよかったんだよな。風呂場とかな。
タオルにくるんで家路についた。
ガールフレンドは万引きがバレた小学生のように泣きながら
途方に暮れて後ろをついて歩いていた。

お香を焚いた。簡単な仏壇を作った。
オレはビールを飲んでいた。
夜が明けると小さな裏庭に穴を掘った。
煮干しの匂いを嗅ぎつけてだろうけど
ノラネコが集まってきた。そりたの好敵手も来た。
「おい。おまえら。葬式だ。煮干しやるから祈れ」

穴を掘ってそりたを埋めた。
そりたの分だけ土が残った。

今でもたまに夢に見る。
そりたが蝶々をつかまえようとジャンプしている夢を。
先日ガールフレンドの証言によると
真夜中オレは突然大きな寝言で
「香港へは行かない。そりたの忠告だ」と叫んだらしい。

「煮干し」では詩にならないので「ジェリービーンズ」にした。
「誰ハロ」ではいちおう完成させたのだが
リズムのノリが悪くて第一選考会で落選した。
そして余りにも思いれが強く「演歌」になりそうっだったので。
そりたは童話として蘇る予定。

余談だが数年前古本屋で立ち読みをしていた。
「インチキ動物病院の実態」に名指しでその病院名が挙げられていた。

そりたを埋めた一帯は今ではバカでかいマンションが建っている。
工事の音ぐらいは平気だよな。そりた。
キミはジョンボーナムのドラムソロも気にしなかったから。

これでおしまい。
   
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