新しい可能性のためのエチュード




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なんだか最高にくだらない物語を書きました。
なぜ書いたのかわからないですが温暖化も要因のひとつのように思われます。
 
もしかしたらこの物語は「あなたのダメ人間度チェック」かもしれません。
読んでぜんぜん面白くなかったり数回「クスリ」と笑うぐらいなら
あなたはたぶんダメ人間ではありません。
「意味わかんなーい」の人はそのまま健やかに暮らしてください。
 
何度も何度も吹き出してしまったり
声を出して笑いっぱなしのヒトは要注意。
悔い改めましょう。


04 未亡人とポン助


ある山奥の豪邸にひとりの未亡人が暮らしていました。
とても美しくて柳腰の小股の切れ上がったいいオンナです。
月に3回ぐらいタクシーを呼んで町へ買い物へ行きます。
さすがにひとりだと退屈で話し相手も欲しいのですが
自分から話しかけたり出会い系サイトなどをやる勇気はありません。
 
その町は商人と職人と流れ者の多い町。
ヤサグレ・ごろつきも仕事もしないで吹きだまりで将棋なんぞをしています。
普段は飯屋や金物屋の娘をにちょっかいを出したりするのですが
幾らバカでも未亡人をからかったりしません。高嶺の花。
「あのヒトは本当にべっぴんだね。
 でもな。オレたちには高嶺の花だしきっとどっかの親分さんの女(イロ)だよ。
 うっかりちょっかい出したら剣呑だぜ」
 
しかしどこの世界にもバカな野郎がいるもんです。
ごろつきの中でもいちばんのバカのポン助が未亡人に声をかけます。
「そこの高嶺の花のべっぴんさん。お。振り向いたね。
 そう。アンタだよ。いや負けました。秒殺惚れの見返り美人さん。
 ちょいとお茶でもおちゃけでもやりませんかい?」
ポン助は服はだらしないですが贅肉のないすらっとしたオトコ。
ヒゲを剃って髪を少しこしらえればけっこういいオトコ。
未亡人は少し照れながらもいっしょに居酒屋へ行きました。
 
「ああ。ポン助の馬鹿野郎。アイツ早番死ぬね」
 
未亡人は少々のお酒でリラックして
ポン助のくだけた口調と駄洒落がおかしてくていい気分。
「お。電話だ。お姫様ちょいと失礼。誰だいったい?水刺しやがって。
 あ。妹のエルだ。また目ぇが回るとかアリの大群が見えるとかそんなんだろ。
 しかしな。放っておくこともできない。でもオレはお姫様とご歓談したい」
「ポン助さん。明日逢えますか?」
「当たり前田のクラッカー。息子が死んでも逢いにいきます」
「息子さんがいらっしゃるの?」
「息子も娘もいません。狐憑きの妹エルとのふたり暮らし」
「わかりました。地図を渡しますのでお待ちしております。
 この印のところがワタシの家です。
 さあ。早くエルさんのところへ」
「面目ない。しるしってこのエックスのところですな。
 合点承知。朝のニワトリが鳴く前に出発します」
 
翌朝ポン助は地図を見ながら山を登りました。
「しかしきつい坂だね。こりゃあちょっとした『旅』だね。
 休みたいが一刻も早くお姫様に逢いたいポン助がんばれよっと。
 ああ。とんびが飛んでら。オレも飛びたいね」
 
なんとかポン助は未亡人の豪邸にたどり着きます。
「嗚呼。本当に逢いにきてくれたのね。嬉しゅうございます
 え?歩いて。 それはさぞお疲れでしょう。
 なにか冷たいものならお早くご用意できますが?」
「早いって全盛期のカールルイスのスピードとどっちがはやい?
 てのはどうでもよくて。お姫様。ポン助は腹が減りました。
 夕べ(ゆんべ)はエルの世話で飲まず喰わず。
 だけどお姫様のバラ色の笑顔と白粉のいいニオイ嗅いだら
 安心して急激に腹が減って参りました」
「では先にお食事を用意しましょう。
 ちょっと時間がかかりますので暖かいものでもやりながら
 そこのテーブルで一服点けてくださいな」
 
「いやあ。涼しいね。緑がいっぱいだ。
 なんか気分がいいね。まるで夢ん中にいるみてーだ」
「用意ができましたよ。簡単なものですけれど。
 牛肉を薄く切ってきましたからシャブシャブでどうぞ。
 それと今朝頂いたとれたてのキノコを。
 これは少しあぶるとよいみたいですよ」
 
美人を前に食事をしながらポン助はご機嫌饒舌。
未亡人もずっと笑いっぱなし。
「やはりひとりよりずっと楽しいわ」
「オレもだよーん。ところでお姫さん。質問があります。
 前の旦那ってどうして死んじゃったんですか?」
「あのね。最初は血管が固くなってきて。
 それで今度はノドや鼻の粘膜がおかしくなって。
 結局末期ガンで病院でモルヒネ漬けで死んじゃったの」
「ふうむ。旦那さんのお仕事は?」
「薬剤師」
「ああ。なるへそ。ヤクザな医師の薬剤師ね。どおりで。
 話はブイーンと変わりますがデザートなんぞありますかね?」
「チョコなら」
「でー好きです」
「よかった。アフガニスタンの友人が送ってくれたの。
 ひとりじゃ量が多すぎて困ってたの。いま持ってきます」
「舶来品のチョコたぁ豪勢だね。
でもさすがに眠くなったな。長い旅だったもんな」
「ポン助さん。それが『自然』ですよ。
 長旅で疲れて暖まってたくさん食べて眠くなるのは自然ですよ。
 最後に一服したら眠りましょう。
 きっとぐっすり眠れるわ。気のすむまで寝てくださいな。
 でも明日はもっと楽しく遊んでくださいな」
「合点。ではポン助。夢の中で夢見てまいります。ぐっないハニー」
 
翌朝。
ぐっすり眠ったポン助はアクビしながらもぞもぞと起き上がります。
「ふぁ〜っと。よく寝た。喋りすぎたせいかノドがいがらっぽいな。
 まだ夢ん中みたいでアタマもぼーっとする。シャッキとしないとな」
「ポン助さんお早うございます」
「お姫様ご機嫌麗しゅう。ポン助はちょっとぼんやりで」
「では冷たいものを用意してありますので」
「カールルイスよりスピードのヤツね。よしっと。お。ひやっとするね。
 アタマが急に冴えてきた。さっきのオレじゃあないね。大変身。
 潜在能力が極限まで高まったユウキ百倍ポン助大覚醒の巻だね」
「よかった。わたくしもちょっぴりご相伴」
 
それからふたりは童心にかえってプロレスごっこなんぞをはじめます。
「おりゃー。姫どうじゃー」
「あー」
「もっとせめるぞー」
「いー」
「卍固めじゃ」
「うー」
「急所攻撃じゃー」
「え〜」
「必殺技じゃー」
「おー」
 
ふたりはせめたりせめられたりしながらプロレスごっこを楽しみました。
 
「お姫さん。ちょっと休憩しよう。やたら喉が渇いた。
 姫もクチの周りが白くなってるけどそれがまた色っぽいアクセサリー」
「ポン助さん。お背中流します。お風呂にはいりましょう」
ふたりは仲良くお風呂に入ります。
「ねえポン助さん。ちょっと頼みがあるんだけれど」
「なんでもきいちゃうよー。三日月盗って来いってーならやりましょう。
 殿様にアフロヘアーさせましょうか。ポン助は神のような至福の万能感。
 お姫様のご随意に」
「あら嬉しい。そんな大変なことじゃないわ。
 ちょいとあとで書類に一筆欲しいの」
「御安い御用。まさか婚姻届だったりして」
「そのまさかよ」
「うひー。ポン助幸せの絶頂。
 出逢ってからまだ30時間ぐらい。スピード結婚だ」
 
「はい。この書類の丸してあるとこに書いてね」
「今日からふたりは夫婦か。夢みてぇだあ。
 よし。さらさらさらっと。はいできましたぁ」
「あら。ポン助さんの名字は広田さんだったのね」
「そう。広田のポンちゃん。ダチ公はみんなヒロポンヒロポンて呼ぶけどね。
 ありゃ。この保証人てのはどうしましょうか?」
「それはお互い左手で適当マシーンで名前書いちゃえばいいのよ。
 わたしが先に書きますから。はい。これでオッケー」
「なに。緑野麻実。いい名前だね。ミドリノアサミちゃんね。
 オレもなんか立派なお武家さんとかお茶の先生みたいのにしよっと。
 うーん。なんかだいそれたのがいいな。よし。これでどうだ」
「見せて。華空古歌院。立派だわ。ハナカラコカイン様。偉い高僧みたいね。
 ポン助さん。もひとつちょいちょいと書いてもらいたいんだけど」
「いいよー」
「これね。キノコとか持って来てきてくれる叔母さまがね。
 派遣で保険屋さんをやってるのよ。
 あとひとりで今月のノルマが達成なんだって。わたしも入ったわ。
 だからポン助さんもお願い」
「あの美味いキノコの叔母さんか。断る理由なし。
 さらさらさらっと。ほいできあがりっと」
「あら。ポン助さんは午年なのね。そうすると今年は前厄で来年が本厄ね」
「近所の坊主のせがれにも言われたけどオレは気にしてない。
 でもどうせいつか死んじゃうんだったら夢ん中で死にてぇなぁ」
未亡人は微笑みながら「きっと叶いますよ」と言いました。
 
おわり。
   
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