薫風丸夢日記



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今回の夢は「つくってんじゃねーの?」といわれてもおかしくないぐらい 
筋道がはっきりとしていて「会話」も実に整然としている。
かなりの長編である。そして「とても楽しい素敵な夢」であった。
夢の中でオレはタバコを吸ったのだが意外にもそれは「今回が初」である。
見たのは「いろいろな作品を書き散らしいささか興奮しながら寝た夜」。
普段は「夜中に途中で目醒めたとき」というのは 
睡眠薬の作用でぼわーっとしているのだがこの日はなぜかくっきりと覚醒していた。
小さな灯りをつけてノートに記した。珍しくちゃんと内容を覚えていた。
とても静かな夜で「世界中で起きているのはオレだけなんじゃないか」と 
想えるような夜であった。

では。はじめましょう。

薫風丸夢日記7 「シロ」

カオルは非常にオンボロのアパートに引っ越してきた。2階の8畳ぐらいの一間。
家財道具などはなくほとんどなく最低限の設備だけ。階段は錆びていていまにも崩れそうだ。
部屋は古いが清潔だ。窓を開けると大学のキャンパスが見える。日当り良好。
しかし「アパートへ昇る階段にたどり着く道のり」が厳しいのだ。
200mぐらいの距離の両手を広げた幅程度の路地を歩いていくのだが 
その路地には様々な粗大ゴミが大量に散乱している。
路地に隣接した家の住人が「必ず1件最低3個の粗大ゴミを路地に捨てましょう」と 
申し合わせたように粗大ゴミだらけ。
テレビをまたぎ冷蔵庫をよじのぼり古タイヤに足をとられないように 
注意しながら歩いていかなければならない。
自転車。ギター。テーブル。ストーブなどなどまるで「縦長の夢の島」のみたいに。
路地の塀には所々「釘」のようなモノが突き出ているので 
それに服を引っ掛けて破けないように注意しなくてはならない。

着の身着のまま引っ越したばかりなので部屋の中にはほとんど何もない。
本やノートが数冊とTシャツやジーパン。それと前の住人が残していった靴箱と小さな犬小屋。
でもオレは気分がいい。「ゼロから始めるんだ」という希望に燃えている。
黄色い具合のいい柄のカーテンが欲しいなあと想う。

近所を散歩してみようと想い例の路地を苦労して通り抜け 
とりあえず大学のキャンパスに行ってみることにする。
校内に入る。偏差値の高そうな行儀のいい大学だ。グラウンドがあり運動着を着た連中が 
かけ声をかけながらジョギングをしている。ボールで練習をしているヤツらも。
噴水もありそのまわりには女子学生が笑いながらおしゃべりをしている。
白衣を着た教授らしきおじさんが通るとたいていの学生は黙礼をする。

キャンバスの中をぐるりと見学していると日当りのいい場所にひとりの女性を見つける。
民族衣装のようなさらっとした真っ白な布を巻き付けた服を着ていて髪は黒く長い。
遠くから見ただけでも「相当に美しいヒト」だというのがわかる。
彼女は何をするわけでもなく少し上を向いて大事な暗号でも解読するような目つきで 
大学の「シンボルマーク・校旗」の方をじっと見つめている。
オレは彼女となんとかして親しくなりたいと痛烈に想う。
また「そうしなければ。彼女を手に入れなければ。それが新しい生活の始まりだ」と。
とにかくそうしないことには「何も始まらない」とカオルは強く感じる。

近づいてみる。彼女は「本当に美しいヒト」なんだということがわかる。
瞳は少しブルーがかっている。肌がとても白く血管が透けて見える。
首は細く長く鎖骨は華奢で手足は長い。ただ年齢がまったくわからない。
そのイノセントな雰囲気や成熟しきってないカラダは15歳ぐらいの少女のようだし 
きりっとした意志の強そうな瞳は「様々なキズ」を乗り越えてきた 
タフな40歳を過ぎた人生経験豊富な女性のようにも想える。
それにしても美しい。「綺麗とか美人」とかじゃなくてひたすらしなやかで美しいのだ。

オレは彼女のそばまで行ったが「どんな言葉をかければいいのだろう?」と真剣に悩む。
とりあえずタバコに火をつけてみる。もしかしたら彼女はタバコなんか嫌いかも。
けれどそれならば「オレと恋人になるのは不可能だから試すいい機会だ」と。

吐き出した煙が彼女の方にユラーッと流れていく。
「ゴメン。タバコの煙迷惑じゃないかな?」
彼女は生まれて初めて喋ったような声で答える。
「迷惑ではありません。わたしはタバコを吸いませんが匂いや煙のカタチは好きです」
「そうか。そりゃあよかった。オレはニコチン中毒だから」
噴水のそばで話している女子学生の笑い声が聞こえる。上品な笑い声だ。
「わたしに話しかけてきたのはアナタが初めてです。
 わたしはよくこの場所で太陽を浴びています。沢山のヒトがそばを通りますが 
 話しかけてきたのはアナタが初めてです」と彼女は言った。
少し微笑んだようにも見えた。
「そうか。キミはここの学生じゃないんだな」
「そうです。話しかけてきたのはアナタが初めてです。日光浴をしに来ているのです。
 質問があります。あなたはどうしてわたしに声をかけたのですか?」
オレは心臓に麻薬を注射されたように息苦しく興奮している。汗がびっしょりだ。
「それは。キミがオレの目にはとても美しく映ったから。
 そしてキミと親密な関係になりたいと。恥を忍んで言っちまえば 
 あわよくば恋人になってもらえないかなあってさ」
「わたしは美しいのですか?」
「他の人はなんて言うかは知らないよ。でもオレはとびっきり美しいと想う。
 オレは最近この近くに引っ越してきた。新しい生活が始まる。ゼロからだ。
 『なぜか』と訊かれても困るんだけれどキミをみた瞬間に 
 オレは『このオンナを手に入れることが必要だ』と感じたんだ。
 それが新しい生活の最初の一歩だって。まあ根拠なんかないただの直感だけどね」
彼女は黙って青い煙が空に消えていくのを眺めている。
「ねえ。キミの名前はなんていうの?」
「わたしには名前があります。でもそれはとっても長い名前なんです。
 詩集なんかよりずっと長いから自分でも正確に言えるか自信がありません。
 だからわたしのことは『シロ』って呼んでください」
「シロ?お城のシロじゃないよな。ホワイトだよな。
 なんだかネコとか犬みたいだな。まあいい。じゃあ。そう呼ぶね。オレはカオルだ」
彼女はそういうとオレの方を見つめて今度は確実に微笑んだ。
「とても嬉しいです。わたしには『恋人というもの』がどういうものなのかわかりません。
 ただアナタがわたしを『シロ』と呼んでくれて『必要だ』と感じたのなら 
 わたしはその通りにしたいと想います。あなたはわたしを『発見』してくれました。
 わたしは『成り行き』が好きです。『なぜ』というのは苦手です。『理屈』も嫌です。
 あなたの『直感がわたしを導く』のです。それは『なぜではなく成り行き』ですから。
 わたしはその成り行きに任せてあなたの部屋で暮らしていくのです」

オレは「うまく行き過ぎ」というよりなぜか「当然の結果」だなと感じていた。
少しオレは部屋を整えたかったので翌日に路地のところで待ち合わせることにした。
「あの路地のことは知っています。何度か通ったこともあります」

オレは家に戻ろうと路地の入り口へ。
するとその路地に横にある家が「ガキの頃のバンド仲間の家」だというを知った。
窓は開いていてバンド仲間はギターを弾いていてお母さんは長ネギを刻んでいる。
「きっと今夜は家族ですき焼きを食べるんだろうな」とオレは想う。

路地を歩きながら「使えそうな家具」などを物色する。
新品の引き出し付きのテーブルやまだ使えそうな洗濯機などがある。
オレは部屋に運ぼうとそれらを持ってみるとそれは予想以上にとっても軽い。
楽勝だ。超軽いじゃんか。ついでに「路地を歩きやすく整理」しながら 
何往復かして必要な家具類をそろえる。何度も階段をのぼりおりしたのだが 
いつのまにか階段は白いペンキが塗られており新品になっている。
いい兆候だなと想う。

翌日待ち合わせの場所へ行くと一匹のすらっとした真っ白な犬がいる。
しっぽはふわふわと長い。口になにかくわえている。
それは「シロ」が着ていた民族衣装だとわかる。
オレは声をかける。「なあ。オマエはシロだろ?」犬はうなずく。
「シロは犬だったのか。そうか。だから何度も路地を通ったんだな。
 犬になっても美しいぞ。シロ。オレの言ってることがわかるか?」
シロはしっぽを振りながら可愛らしい声で鳴きうなずいた。
「よし。オレの部屋に行こう。家財道具は一応そろえたんだけど 
 人間用のばっかだよ。でも小さな犬小屋があるから」
シロはオレに飛びついてきた。オレは抱き上げ路地を抜けて部屋へ連れて行った。

シロは犬小屋の前でうなりだした。気に入らないのだろうか?
「これ。嫌か?」シロはうなずく。「よし。捨てて来るよ」
オレは民族衣装を日当りのいい場所に敷いて外へ出た。シロはその上にすぐに寝そべった。
犬小屋を路地の塀の向こうに投げ捨てかわりにソファーを拾ってきた。

家に帰るとシロはニンゲンになっていてハダカのまま民族衣装の上に座っている。
「あれ。ニンゲンにもどったのか。しかし綺麗なおっぱいだなあ。
 陰毛もふわふわしているな。それにても本当に白いな。恥ずかしくないのか。裸で」
「わたしはハダカは恥ずかしくありません。こちらの方がしっくりきます。
 でもニンゲンの姿で日光浴をするにはハダカだといろいろ面倒なことがあります。
 だからわたしはあの場所で日光浴をするときはこの服を着るのです。
 この場所はとてもいいですね。太陽がちょうどよく照らしてくれますし 
 ハダカでいても誰にも何も言われません。わたしはここで暮らしたいです」
「あなたもハダカになってこちらへ来てタバコを吸ってください。
 青い煙が空に消えていくのを見るのが私は好きです」

オレは服を脱いだ。しかしタバコが切れている。
「シロ。タバコなくなっちゃったよ。買ってくるから」
また服を着る。いつの間にかシロはまた犬になっている。
玄関の方に歩いていく。「ああ。シロがどっかからタバコを手に入れてくるんだろう」

しばらくするシロが帰ってきた。ニンゲンの格好をして赤いドレスを着て 
化粧までしている。タバコやパンや飲み物が入った袋をぶら下げて。
「ありゃ。また変身しちゃったな。でもそれはそれで綺麗だ。ちょっとエッチだな」
「成り行きです。成り行きでこの姿になったのです。
 必要なものはすべてそろいました。でもそろそろ日が暮れますね。
 また明日太陽を浴びながらタバコを吸ってくださいね」

オレはいつの間にかドアがないのに気がつく。でも「成り行き」なんだなと想う。
ソファーに寝転んでタバコに火をつける。シロは犬の姿でオレの足下で丸くなってる。

ここで目が醒めた。

起きて「忘れないようにメモ」を書いていたらワクワクするカンジが蘇り 
書くコト自体もワクワクしてとても楽しかったのだが 
また興奮してしまい「徹夜」をするハメになってしまった。
またシロに逢いたいと想う。

「なぜ」ではなく「成り行き」というやりとりは 
最近読んだ「猫だましい」という本に「そのような文章」があり 
オレは大変に感心して興味を持った。その影響であろう。

そういえば「夢の中のオンナに恋をして狂死したオトコの話」って以前読んだな。
でも相手がシロなら「本望」じゃ。
また逢えるかなあ。

おしまい。
 
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