新・最後のアジト




<< liblaryトップに戻る
新・最後のアジトact.6 「レンタルCD屋に奇妙な果実のブルースを」

ビリーホリデーという黒人の女性ブルースシンガーがいる。プロフィールなどカオルは知らない。
まあ40年以上前の時代に活躍したヒトで多分アメリカ南部・ディープサウス出身ではないかと。
カオルは「海賊ベスト版」しか持っていない。当時の録音状況・機材なども猛烈に古いので
曲自体が歪んだりレコードのスクラッチノイズのようなものも録音されている。
たまにそのCDをかけるのだがなんだか「BGM」にはならない。
曲自体は「唄いあげるブルース」なのだが彼女のエネルギーがとても強いのだ。
だから元気がないときはビリーホリデーのパワーに負けてしまうので調子がよいときにしか聴けない。
代表曲に「 ストレンジ・フルーツ 〜奇妙な果実」という3分ぐらいの曲がある。
カオルは英語がわからないし海賊版なので歌詞カードも入っていない。
「なんだか物凄いパワーの曲だなあ」と。
そしてある日その歌詞の「内容・意味」を知ることになる。驚いた。というか軽くぼう然とした。
正確な訳は出来ないし資料がないのでアウトラインを。

「わたしの暮らす街には小高い丘があり大きな樹が1本立っている。
 その樹には時々『奇妙な果実』が実をつける。
 その果実は黒い色をしている。舌をだら〜んとだし人間そっくりの形をしている。
 クビにロープが巻き付いていて風に吹かれると揺れる。腐り果てるまで」
だいたいこんなカンジ。

もうお分かりだと思うがその「奇妙な果実」は「縛り首の黒人」である。
リンチか冤罪か。面白半分か。自殺か。それはわからないが「ぼう然」に値する。
アメリカ南部は特に黒人の差別が多い。それは現在でも続いている。
その詩を誰が書いたのか知らないが「捏造・フィクション」ではないと思う。
ビリーホリーデーの仲間がそういう目に遇ったのか。パパに聞いたのか。
とにかく多少の脚色はあるにせよ「事実」だとカオルは思う。

ブルース。カオルは「キミの胸についたキズ。それをブルースと呼ぶ」とほざいている。
今もそう思っているし「ブルースとはジャンルではない。覚悟」であると。
とにかく「奇妙な果実」の歌詞をみると
「これを唄わなければいけないのか。ブルースとはココまでやるのか。
 カオルが感じていたパワーは怨念とそっくりだ」

アメリカ。ブルース・ジャズ・ロックンロールの生まれた国。戦争の好きな強い国。
陸上選手が凄い国。沢山の名画やミュージカルのある国。黒人差別のある国。
「モータウン」という音楽のジャンルのようなものがある。ソウルや R&Bだ。
当時黒人は「黒いから」という理由で「メジャー」から発売できなかった。
だから彼らは「独立・インデペンデンス」をした。「インディーズレーベル」である。
その発祥の地がアメリカのデトロイト。主に自動車産業で有名な街。
その街の愛称「モータータウン」が縮まって「モータウン」となった。

カオルはモータウンのミュージックが好きだ。特にライトソウルが。最近のジャパンでも
R&B・Black Musicが流行っている。専門学校の生徒にも「そのジャンルのファン」が多い。
時は流れる。当時は斬新だった「ベートーベン」もすでに「クラシック」になった。
ビートルズはもはや懐メロであろう。200年後にモーニング娘がもてはやされているとは考えにくい。
カオルは何が言いたいのだろう。
たぶん「奇妙な果実」のコトを次世代に語り継いで欲しいのだ。
肌が黒いというだけの理由で奴隷にされていた時代が遇ったと。
「縛り首の唄」を書かねば・唄わなければならないシンガーがいたと。
そして彼女の声はとてもパワーがあると。

TUTAYAでレンタルしろよ。
当日返却すれば300円ぐらいだぞ。
べつに「ヒライケン・ハマサキ・ケミストリー」などの和製R&Bを選んでもいい。
値段は同じだけど多分ビリーホリデーはカラオケにはない気がする。

まあよい。とにかく
「ブルース」をなめんじゃねーぞ。

おしまい。
   
  act.07へ→