薫風丸夢日記



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初夢は「悪夢」であった。
8時前にメガ醒めたのだが眠り足りなくて 
あまってる睡眠薬をひとつ飲みうつらうつら。
 
チカゴロなぜかよく「川崎駅」の夢を見る。
ストーリーになっているのだが断片的にしか覚えていない。
 
オレがガキの頃の川崎は治安の悪い街だった。
ヤクザと浮浪者と風俗嬢と酔っぱらいしかいなかった。
デパートとポルノ映画館とトルコ風呂とパチンコ屋と競輪場しかなかった。
路地裏には不良がたむろしていて座り込みつばを吐き道行くヒトを睨む。
やわな不良ではない。中学を出たら「ヤクザか水商売かヒモ」になるような不良だ。
 
パターンはだいたい同じだ。
オレはJRの川崎駅付近の裏通りにいて「家」に帰ろうとするのだが 
「駅」までの道がわからない。迷子になってる。必ず場面は「夜中」だ。
タクシーに乗ろうとするのだがなぜかオレを乗せてくれない。
 
さあ。はじめましょう。
 
  
薫風丸夢日記11 「川崎駅」
  
帰り道がわからない。何度も現実の世界では歩いて帰ったコトがあるのに。
この辺りはなんとなく見覚えがあるんだけど。タクシーに乗ろう。大通りへ出よう。
沢山のタクシーが通るのだけれどほとんど客が乗っているし「迎車」のランプが点いている。
たまに赤く「空車」のタクシーも通るのだが客が乗っている。
これは「違法行為」なのだけれど「ワンメーター」ぐらいの時には 
運転手が「小遣い稼ぎ」にこの作戦をする場合がある。
現実の世界でオレも言われたことがある。
「お兄さん。1000円でいいです。だからシートになるべく深く腰掛けて 
 他の車から乗っているのがわからないようにしてもらえませんか」
 
手をあげても振っても信号待ちのタクシーに近づいても乗せてくれない。
みんな知らんぷりをするのだ。それともオレの「存在」が見えないのだろうか。
あ。ワンブロック先のタクシー。いま客が降りようとして料金を払ってる。
チャンスだ。走る。あ。抱えたギターケースのポケットからシールドが落ちそうだ。
それをちゃんとしている間にタクシーは走り去っていく。
ダメだ。駅へ行こう。電車で2つ目だから。
 
でも川崎駅までの道がわからない。
裏通りをほっつき歩く。
ペットボトルを標的にして手製のパイプで作った銃で遊んでいる不良達がいる。
発射しているのは「弾」じゃなくて「釘」みたいだ。
「おにいさん。川崎の駅はどっちかな?」
「教えてやってもいいけど。オマエさ。この銃で自分の手を撃ってみなよ。
 儀式なんだ。ルールなんだよ。根性なしには教えられない」
オレは銃を受け取る。プラスティクのトレイには様々な釘が並べられている。
オレは「先のとがってないヤツ」を選んで手を撃った。
「ダメだ。そんな釘選んでさ」
みんな呆れたように笑いながらスガタを消す。
オレはなんだか情けない。
 
ウロウロしていると「ガード下」に。
あ。これなら。線路に沿って歩けばいい。
どっちに転んでもいい。川崎駅なら電車に乗ればいい。
逆方向ならオレの家のある駅に着くし。
 
テクテクと歩いていくと「テーマパーク」のような場所に。
そこでは「コンピューターグラフィックで作成されたカンジの恐竜」がいる。
ピンクだったりみんなサイケデリックな色をしてる。
オレは「すげー」と見て回る。楽しい。夢中になる。
(しかし「夢の中」で「夢中」とはな)
そんで気がつくとまた薄暗いネオンの裏通りにいる。
 
どうしようかと困っていると声をかけられる。
振り向く。ああ。オレが「最も会いたくないオトコ」だ。
「マイナスに相当する感情のすべて」が同時にわき上がり息苦しい。
「よお。カオル。どうしたの?」
「いや。あの。川崎駅の道がわからなくて」
「なんだ。案内してやるよ」
オレは渋々あとをついていく。
しばらく歩き案内された先はキャバレーのような場所だった。
艶やかだが無表情なオンナ達と酔客と強面のオトコ達。
ステージの上には「ドラムとボーカル」のふたり組がライブをしている。
「なあカオル。あのドラマーいいと想わない」
「ああ。いいね」
「オレさあ。最近ドラムはじめたんだけどアイツより上手いよ。
 だからさ。バンドやろうぜ。な」
オレは絶対に嫌だから断ろうと想うのだが「口実」が見つからない。
 
「なあカオル。逆にあのボーカールはヒドいよな」
「ああ。確かによくはないな」
「そうだろ。じゃあオマエさコレでアイツのノド刺して来いよ。
 そしたら川崎駅の近道教えるから」
銀色の先の鋭い耳かきのような道具を渡される。
オレはステージに上がり迷わず喉仏にそれを突き刺す。
柔らかい砂に針を刺すように銀色のそれはボーカルのノドに刺さる。
でもボーカルは何もなかったように唄い続ける。
間奏の時にオレの方を見て笑いながら言った。
「アンタさ。ヒト刺すの慣れてないでしょ。すごくヘタ。
 オレの唄よりぜんぜんヘタクソ。あのね。教えてあげるよ。
 刺したらね。ひねるの。かき回すの。いい?刺したらひねるの」
 
オレはとても恥ずかしい。
後ろから「最も会いたくないオトコ」の大きな笑い声が聞こえる。
「ダメだ。道は教えない。ヘタクソだから」
キャバレーの中の人々もみんなクスクスと笑っている。
オレは外に出る。
やっぱりなんとかタクシーを拾おう。
 
大通りは歩行者天国のようで車はまったく通ってない。
沢山のヒトがはしゃいでいる。花火をしたりふざけっこをしたり。
ビールをかけあったりスプレーでアスファルトに落書きをしたり。
着飾った若者ばかりだ。ドラム缶を蹴り続けているオトコ。
ガラスが割れるような音がする。馴染みのないメロディーとリズム。
テレビの取材も来ているようだ。やたらに照明が明るい。
背の高いオンナを中心にカメラやマイクが向けられている。女優のようだな。
報道陣は「謝罪」を要求しているようだがオンナは無視して違うことを喋っている。
「私のボディーガードのこの黒人男性達はすべてゲイです。
 みな特有の武術の有段者です。安全ピンで人を殺せます。
 ただ刺すだけではダメです。刺したらひねるのです」
オレはなんだかまた情けなくなる。
あ。携帯電話が鳴っている。
 
それは「現実の電話」の音だった。
メガ醒めた。
 
とても嫌な気分でメガ醒めた。
なぜ「最も会いたくないオトコ」の夢を見るのだろう? 
オレは無意識下で何を恐れているのだろう? 
刺したらひねる? 
オレはヒトなんか刺したくない。
どうして「川崎駅」なんだろう? 
さっぱりわからない。
 
レインをそっと撫でてみる。
気持ち良さそうにノドを鳴らす。
レインのお腹に顔をつける。
とても暖かい。
肉球を触ってみる。
とても柔らかい。
 
レインも夢を見るのだろうか? 
 
 
おしまい。

 
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