その他/四面そっか。

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「ヘヴィー・スモーカーに愛の含み笑いを」の巻    「黄昏の膝かっくんに男達のジェラシーを」の巻   「センタッキの爆音と渡辺美里の歌詞カード」の巻

第2話「黄昏の膝かっくんに男達のジェラシーを」の巻

個人的な例えで申し訳ないがその日わたしは修学旅行のように疲れていた。
特に興味もない壺や寺院を見学させられ同じ服を着た学友達と
「ためになる」場所を決められた順路どおりに歩く。移動中のバスの中では
ガイドの唄やたぶん1200回ぐらいくり返したギャグのようなものを聞かされる。
とにかくわたしはそんな風に疲れていた。
ペリカン氏(仮名)から待ち合わせの場所を渋谷ハチ公前に指定されたときから
嫌な予感はしていたがなんと案内されたのはセンター街の中心部に位 置するマクドナルド。
わたしはホットコーヒーを頼んだがペリカン氏はたぶんそのウエイトレスが
気に入ったのであろう「ここは何がお薦めなの?」などと話しかけている。マックで
何がお勧めもくそもないじゃろーが!とわたしはしびれてきた前頭葉あたりで思ったが
オトナなので口には出さない。
そうわたしは最近気付いたのだがオトナだったのである。
よく友人などから「カオル・ザ・ジゴロ君。大人気ないことをするもんじゃあないよ。」などと
たしなめられる。子供に大人気ないことはできない。
だからわたしはオトナなのである。えっへん。まあいい。
結局ペリカン氏はビッグマックとなんちゃらシェイクを注文し喫煙席へ向う。
わたくしカオル・ザ・ジゴロは元アル中でチンピラ詩人のヒモであるが嘘つきではない。
だから信じて欲しいのだがその喫煙席の一角を陣取る女子高生達4〜5名は
なんと全員葉巻を吸っていたのである。
何人かはあぐらをかいており彼女達の携帯の着メロ合戦と店内に流れる待ち合わせの時に
仕方なく注文するコーヒーのようなBGMが奏でる不協和音のメロディー。
わたしの前頭葉は機能停止寸前で「店変えませんか」と提案しようとしたが
ペリカン氏は「ここにいると最新の若者情報がゲットできるんだよね。」と
先に言われてしまった。
もちろんオトナであるわたしは右頬辺りだけで笑い頷いたのは言うまでもない。
マトモな人間に忠告する。
価値観が多様化する現代において何をマトモの基準とするかはむずかしいところであるが
前頭葉の健康を維持したかったら絶対に昼下がりの渋谷センター街マクドナルドへ
行ってはいけない。ドストエフスキーならきっと「地獄絵図」と表現するであろうし
ノストラダムスなら「この国もうちょいで滅びるねー」と予言するであろう。
わたしはなんの特徴もないコーヒーを飲みながらペリカン氏の饒舌に耳を傾ける。
話を聞き初めて10分。
なんだこれなら電話かメールで済んだじゃねーかよ。
ともはや使いものにならなくなっている前頭葉で思ったがオトナなので口には出さない。
それから15分ペリカン氏は昨夜の「トリビアの泉」で得た情報などを交えながら喋り続ける。
途中ペリカン氏の携帯が鳴り(着メロアナログ黒電話の音)
「あっそ。じゃいまからいくねぇ。」という授業終了のコトバを聞きわたしはほっとする。
「イヤー急用が入っちゃってさあ。まあだいたいそんなかんじだから
カオル・ザ・ジゴロ君そういうことで。」
そう言いながらペリカン氏はわたしの肩を揉んでくれた。
ありがとう。
わたしは逃げるように渋谷の雑踏を歩き駅へ向う。ため息を5回ぐらいついたかもしれない。
夕方のラッシュが過ぎて少し空いてきたホームの端にあるJRの喫煙コーナー。
足下には男達の潰された時間がそこはかとなく散らばっている。
サラリーマンのスーツのシワの寄り具合になんだか親近感を覚える。
わたしはロングピースをとりだし深々と吸い込む。
目の前にはそこそこのルックスの若いサラリーマンがボンヤリとタバコを吸っている。
その時である。
後方5mぐらいからにツカツカととてつもなく可愛い娘がこちらにやってくるのである。
胸も見事にデカイ。当然わたしを始めしょぼくれた男達はチラチラと見る。
彼女はそのそこそこのルックスの若いサラリーマン近づき膝かっくんをしたのである。
ナーンだよオマエかよビックリさせんなよ的同僚風笑顔で男はニヤけるが
まんざらでもなさそうだ。その時わたしの敏感なアンテナは
周囲の男達のジェラシーオーラをビリリとキャッチした。しかもそのとてつもなく可愛い娘は
まったく邪気がなくそれがいっそう我々をジェラしくさせる。
さらにその娘はクロレッツを取りだしその果 報者であるそこそこの男にアーンである。
わたしは確信した。
今夜きっとどこかで奇妙な犯罪が起きる。
そして犯人はこの中にいる。
世の女性に忠告する。
黄昏時JRの喫煙所でいかなる理由があろうとも膝かっくんをしてはいけない。
結論が出たところでカオル・ザ・ジゴロは深遠なる闇の中へドロン。
 
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