その他/四面そっか。

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「ヘヴィー・スモーカーに愛の含み笑いを」の巻    「黄昏の膝かっくんに男達のジェラシーを」の巻   「センタッキの爆音と渡辺美里の歌詞カード」の巻

第3話「センタッキの爆音と渡辺美里の歌詞カード」の巻

とても怖い夢を見た。
「ぬうあぁ!」という自分の大声で目を覚ます。
首のあたりがヌルヌルするほど汗をびっしょりかいている。
夢の細部は起きた瞬間に忘れてしまったが
何か針金状のモノでカラダを引っ掛かれそうになった気がする。
念のためシャツをまくり点検するが異状なし。
時計を見ると午前4時を少し回ったところ。
ロングピースに火をつけ深々と吸い込む。
ノドも乾いたしタバコも最後の一本だったので近所のコンビニまで散歩がてら買いに行こう。
大きめのジャンパーを着てアタマにタオルを巻いて。
ちなみにわたしは新品のタオルが嫌いである。
汗を吸わないしなんとなく新学期に隣の席になったまだ名前も知らない子のような
よそよそしい雰囲気が苦手なのである。
新品のタオルは1度洗えばいいのはわかっているのだが汚れてもいないものを洗うなんてなあ。
 
11月だというのに朝はとても寒い。びっしょりだった汗もスーッと乾いていく。
空には少し欠けた月。何か大切なものを燃やした時の煙のようなもやがうっすらと
かかっていてボンヤリと光っている。
星を数えてみたがずいぶんと少ない。
みんなが願い事ばかりするので
そのたびに星は流れてこんなに減ってしまったのだな。
ううむ。
自然保護のためにも我々は願いを叶えなくてはならんのだな。
小さな名もなき川の名もなき橋を渡る。
曲がり角のところに渡辺美里の歌詞カードが落ちている。
「マイ・レボリューション」
ううむ。
事件ですかねえ明智さん。
現場保存の法則を守りわたしは真直ぐコンビニへ。
信号は赤だったが車が全然いないので迷わず渡る。
そう青信号だから渡るのではなく車が来ないから渡るのだよ。
信号というのはルールであり目安であり渡るかどうかの判断はキミがするのだよ。
そうですよね明智さん。
 
コンビニには早朝にもかかわらず結構沢山の人がいる。
みんな食品を物色したり週刊誌を立ち読みしたり。
どの週刊誌も胸の大きな女の娘がニコリとし
芸能人が別れたり密会したり
スポーツ選手が独占手記したり
少年犯罪の真相に迫ったりしている。
 
おい坊主。
 
ひとりで死ぬのが嫌だから親に刃物を向けるたぁどういう了見だ。
テメエなんか電気あんまの刑だぞ。
死にたいんだったらカンボジアあたりでも行って地雷撤去でもしてこいつーんだよ。
爆死したら本望だろうし地雷5個ぐらいでも撤去したらオマエよい子だぞ。
 
わたしはコーラとチョコパイを選び
ロングピースを3個買い
会計を待つ間ミニスカートのままで座り込んで雑誌を読んでいる少女の下着が
黒であることを確認しコンビニをあとにする。
 
空はいつの間にか明るくなっている。
 
家に着いてコーラを飲み6匹のネコにエサをやりシャワーを浴びる。
今日は精神科へ行く日なのでカオル・ザ・ジゴロ君は丹念にヒゲを剃る。
そうわたしはアル中再発防止と軽い躁鬱気質治療のため
月1〜2度精神科に通っているのである。
風呂から出てネコのトイレを掃除し
ちょっと早いかなあと思ったがセンタッキを回す。
BGMはツェッペリンライブ。
センタッキに負けない爆音でかける。
わたしが近所から嫌われる理由はこの辺にもあるのであろう。
ジゴロ風の服に着替え
コロンをちょいと振りかけ
帽子を深々とかぶり
わたしは家を出る。
外はくっきりと晴れている。
わたしはなぜだか少し恥ずかしくなる。
 
近所のボスネコとすれ違う。
 
よお兄ちゃん。朝からしょぼくれた顔してんなあ。
へえ昨夜怖い夢見たもんで。
そっかじゃあしかたねーなあ。
それよか兄ちゃんカツブシ持ってねーか?
すんません持ってねーです。
なんてことをテレパシーしながら駅へ向う。
 
病院へ向う途中タバコを忘れてきたことに気付き自動販売機で買う。
わたしの通っている精神科は病院のクセにタバコが吸えるのだ。
待合室の大型テレビではNHKの番組が流れている。
4人しか後継者のいないなんとか太鼓や動物園の人気者キリンのビビちゃんの話題とか
そういうやつだ。
隣の少年は30秒置きぐらいに時計を眺め
前のおじさんは自分の中指に何かずっと話しかけている。
順番はまだかと受付に文句を言うオバサンがいる。
呪文と童謡の中間ぐらいの唄のようなものをブツブツ喋ってる少女がいる。
うー気が狂いそうだ。
ということはまだわたしは気が狂っていないのであろう。
 
「カオル・ザ・ジゴロさ〜ん」
 
名前を呼ばれ診察室へ。
どーですか?
今日はちっと鬱ですが大丈夫の模様です。酒も全然です。
偉いですね。じゃあいつものクスリです。それではまた来月。さようなら。
病院の帰りに横浜へ行く。ビデオを借りるのだ。ココロ暖まるやつを。
それにしてもずいぶん沢山の人がいるなあ。
学生。
外国人。
サラリーマン。
在日宇宙人なんてのがいてもおかしくねーなあ。とふと思った。
 
ちなみに家に帰るとき橋を通ったら渡辺美里の歌詞カードはなかった。
やっぱ事件だったですかねえ明智さん。
 
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