黒猫ゼリーはコンビニの裏口で生まれました。
お母さんや兄妹と駐車場の廃車の中で暮らしていたのですが
いつの間にかゼリーはひとりぼっちでした。
散歩に行ってそれっきりだったり優しそうなヒトに拾われていったり。
でもコンビニの店長がいつも売れ残りのご飯をくれたり
おかしな話をしてくれたので ゼリーはそんなに寂しくありませんでした。

「なあ。今夜のカツ丼弁当はどうかな?  
新製品らしいんだけど特に美味くないよな。
本社は目玉商品にしたいらしいんだけどさ。 実際今日も売れ残っちゃたしね」
ゼリーは美味しいと想いました。
「売れ残り」というコトバの意味はわからなかったけれど
なんだか自分と少し似ているような気がしました。


「なあ。地球ってさ。 いつか粉々になっちゃうらしいよ。知ってた?  
まあいつかと言っても何十億年も先の話なんだけどね。  
オレ想うんだけどさ。ダイヤとかゴールドって永久じゃん?  
固いし溶けないしさ。だからさ。地球が粉々になってもさ。  
ゴールドとダイヤは永久だから粉々になんないの。  
そんでね。宇宙に金とダイヤだけがプカプカしてんだ。  
きっとすごい空は綺麗だぜ」

ゼリーは宇宙もゴールドも知らないのですが
空が綺麗なのは素敵だと想いました。

ある夜のコトです。 いつもお喋りな店長がしょぼくれています。
「オレさ。飛ばされるんだ。もしかしたらクビかも。  
売り上げが伸びなくてさ。接客態度もあんまりよくないから再教育だってさ。  
それとノラ猫にエサなんかやって不潔だとか言われてさ。  
ノラ猫が集まってくるコンビニなんてダメで店長の資格ないって。  
ごめんな。  
アシタから遠くの店でしばらく研修なんだよ。  
だからきっともう来られないんだ」

ゼリーは「飛ばされる」というコトバの意味はわからなったけれど
それは「いなくなったお母さんや兄妹と似ている」と想いました。


ご飯がもらえなくなったのでゼリー自分でエサを探しにいきました。
恐い目にも遭いました。
ほとんどの時間を廃車の中でぼんやり過ごしました。
でもそれより「店長と逢えない」コトをとても寂しく想いました。

それから季節がひとつ過ぎたあと。
カツオフレッシュパックを持った優しそうなオトコが近づいてきました。
ゼリーは久しぶりのごちそうでムシャムシャ食べました。
オトコはニコニコ笑いながら言いました。


「美味しいかい?ボクはレインハウス探偵なんだ。  
レインハウスの詩人が冒険に出かけた黒猫レインを探している。  
そしてたくさんのワケアリの黒猫たちと暮らしている。  
ねえ?キミの名前はレインというのかな?  
レインという黒猫を知ってるかい?」


ゼリーは困りました。
だってその時は「名前なんてなかった」のですから。
名前ってなんだ?

「よし。レインかどうかはあとでわかる。  
ワタシと一緒にレインハウスへ行かないかい?  
カツオフレッシュパックが食べ放題だよ」

黒猫ゼリーは探偵と一緒に旅に出るコトにしました。

レインハウスには沢山の黒猫がいました。
そして自分はレインじゃないコトを知りました。
でもかわりに詩人が「オマエはゼリーな」と名前をくれました。
ゼリーはその名前が気に入りました。 それに沢山の仲間ができたのが嬉しくてたまりませんでした。

 

ゼリーは星空に星がチラチカとしているのを観ると 「コンビニの店長」のコトを想いだします。
「店長も店長ハウスでたくさんの店長となかよしだといいな」と。

そんな風にして黒猫ゼリーはレインハウスで暮らすようになりました。
ずっとずっと後のコトですが 戻ってきたレインは「店長のおかしな話」が大好きで
同じ話を何度もゼリーにせがみました。

 

 

「空にちっこい光がチラチカとしてるだろ。 あれはね。どこかの星が壊れて粉々になって
 ダイヤとゴールドは永遠だからそれが光っているんだよ」

 

 

 

 


おしまい。

 

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