ある夜のコトです。 いつもお喋りな店長がしょぼくれています。
「オレさ。飛ばされるんだ。もしかしたらクビかも。
売り上げが伸びなくてさ。接客態度もあんまりよくないから再教育だってさ。
それとノラ猫にエサなんかやって不潔だとか言われてさ。
ノラ猫が集まってくるコンビニなんてダメで店長の資格ないって。
ごめんな。
アシタから遠くの店でしばらく研修なんだよ。
だからきっともう来られないんだ」
ゼリーは「飛ばされる」というコトバの意味はわからなったけれど
それは「いなくなったお母さんや兄妹と似ている」と想いました。
ご飯がもらえなくなったのでゼリー自分でエサを探しにいきました。
恐い目にも遭いました。
ほとんどの時間を廃車の中でぼんやり過ごしました。
でもそれより「店長と逢えない」コトをとても寂しく想いました。
それから季節がひとつ過ぎたあと。
カツオフレッシュパックを持った優しそうなオトコが近づいてきました。
ゼリーは久しぶりのごちそうでムシャムシャ食べました。
オトコはニコニコ笑いながら言いました。
「美味しいかい?ボクはレインハウス探偵なんだ。
レインハウスの詩人が冒険に出かけた黒猫レインを探している。
そしてたくさんのワケアリの黒猫たちと暮らしている。
ねえ?キミの名前はレインというのかな?
レインという黒猫を知ってるかい?」
ゼリーは困りました。
だってその時は「名前なんてなかった」のですから。
名前ってなんだ?
「よし。レインかどうかはあとでわかる。
ワタシと一緒にレインハウスへ行かないかい?
カツオフレッシュパックが食べ放題だよ」
黒猫ゼリーは探偵と一緒に旅に出るコトにしました。
レインハウスには沢山の黒猫がいました。
そして自分はレインじゃないコトを知りました。
でもかわりに詩人が「オマエはゼリーな」と名前をくれました。
ゼリーはその名前が気に入りました。 それに沢山の仲間ができたのが嬉しくてたまりませんでした。